燐光群の舞台『ハシムラ東郷』を観てきた

ZERO-tortoise2009-11-24

 何年か前、映像コンテンツの企画で元祖日本人ハリウッドスター・早川雪洲を調べていた時期があった。その企画は実現することなく雲散霧消してしまったのだが、その時僕はGoogleアラートとして<早川雪洲>を登録していて、そのことも先週アラートメールが飛んでくるまでまったく忘れていた。メールの内容は「百年前、アメリカでもっとも人気のあった日本人で、あの早川雪洲主演で映画化もされた謎の人物<ハシムラ東郷>が坂手洋二によって舞台化され、11月20日から公演が始まる」というものだった。
 ハシムラ東郷? 聞いたことあるようなないような…。検索してみるとなるほど興味深い人物のようだ。慶応大学の宇沢美子著「ハシムラ東郷 イエローフェイスのアメリカ異人伝」という研究書も出ていて、今回の舞台もその本をベースにしているようだ。俄然興味が湧いてネットでチケットを購入してみた。
 図書館で宇沢美子教授の本も借りてみた。時間がなくて斜め読みしかできなかったが、概要は以下の通り。<ハシムラ東郷>は、20世紀はじめ、日本人学僕(Japanese schoolboy)の新聞への投稿という形でデビュー、アイロニカルな辛口の文明批評を書き人気コラムニストとなり、マーク・トウェインにも絶賛された。その姿はいくつものの挿絵として描かれ、「出っ歯に吊り目に丸眼鏡」というアメリカ人の日本人イメージの原型となったとされている。その実<ハシムラ東郷>は実在しておらず、正体は白人作家のウォラス・アーウィンだった。

 11月23日、座・高円寺に臨んだ。階段状に組まれた200席あまりの劇場、ステージも目の前までひな壇があつらえた舞台だった。
 作・演出の坂手洋二は、メタ化した<ハシムラ東郷>を通じて、日米の百年の歴史を輪切りにして再構築して更に断片化してプレゼンテーションする。メタ化は、<ハシムラ東郷>だけではない。<ハシムラ>を描いた<ウォラス・アーウィン>がステージ立ち、研究書を書いた<宇沢美子>が語り部となり、宇沢の研究したフェミニスト<シャーロット・ギルマン>が理想社会を語り、ギルマンの代表作<黄色い壁紙>の世界が現出する。そして<ハシムラ東郷>は“学僕”として時代を串刺しするのだ。
 なかなか興味深い演劇だった。
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燐光群の『ハシムラ東郷』
作・演出/坂手洋二
出演/田岡美也子・平栗あつみ・植野葉子・中山マリ・鴨川てんし・川中健次郎・猪熊恒和・大西孝洋・樋尾麻衣子・杉山英之・安仁屋美峰・伊勢谷能宣・いずかしゆうすけ・西川大輔・武山尚史・鈴木陽介・矢部久美子・渡辺文香・横山展子・根兵さやか・橋本浩明

2009年11月20日〜30日@座・高円寺
12月8日・9日@エル・パーク仙台(仙台)
12月12日@盛岡劇場(盛岡)
12月15日・16日@愛知県芸術劇場(名古屋)
12月19日・20日イムズホール(福岡)
12月22日〜24日@AI・HALL(伊丹)

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ハシムラ東郷

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