岡本太郎の絵画

 招待券をいただいたので川崎市岡本太郎美術館に「開館10周年記念展 岡本太郎の絵画」を観に行った。曇天だったが、向ヶ丘遊園駅からてくてく歩き、館のある生田緑地に着くと、緑も深くなりなかなか気持ちのいい午前10時だった。
 僕の岡本太郎原体験。幼い頃、真夏の大阪万博の会場で、丹下健三の大屋根をぶち抜いた「太陽の塔」は強烈な印象を僕に残している。「太陽の塔」の内部は今まで観たことのない異世界だった。「顔のグラス」はなぜだか実家にあった。「芸術は爆発だ!」とトンだ眼でブラウン管から挑発する岡本太郎は確かに70年代のトリックスターだった。
 そんな岡本の絵画を中心にした企画展はなかなか楽しめた。結構人もいる。人気あるんだなあ。
 クロニクルに展示された岡本の絵画は丁寧な解説と、関連する作家の絵(たとえばピカソ)と連動させ立体的に並べられていく。岡本太郎の制作過程のわかる、ラフデッサンや取材映像なども交えられている。
 そんな展示を観て僕自身認識を新たにしたのは、岡本は構図の人なんだなあということ。天才的な感性で勢いとひらめきに任せて描いているのかと思っていたが、自分の中に沸いてきたイメージを捉えるべく、執拗なデッサンを繰り返していたようだ。そこから理想的なレイアウトを決めてると、自然にそして大胆に色を乗せてゆく。残された制作過程からはそんな賢い岡本太郎もうかがえた。
 チケットのメインビジュアルにもなっていたが、『森の掟』という絵がいちばん気になった。『1Q84』でリトル・ピープルの巣くう森もこんな感じかもしれない。薄っぺらく分離可能なジッパーの赤い怪物が印象的だ。
 岡本太郎の絵や作品をだーっと観てきて、『交響詩エウレカセブン』のわらわらでてくる目玉系のコーラリアンって、岡本がモチーフだったと今更に気づく。
 会場にあった岡本太郎の言葉。「芸術は呪術だ。」たしかに。
 美術館を出るとぽつぽつと雨が降り出した。傘を持たぬ僕は家路を急いだ。

川崎市岡本太郎美術館