1Q84読中メモ44

第20章(天吾)せいうちと狂った帽子屋
 これまででいちばん短い章。スライドしてしまったこの世界の事実確認と、小説全体へのアクセントか。まあ、テレコでふたつの物語を重ねてきた訳だから、こういった「調整」も必要なのだろう。とにかく、残りページも少ないので、ここから怒濤のエンディングへ僕らを連れていって下さいな、ハルキさん。
<〜しかし目に映るのはごく当たり前の都会の住宅地の風景だった。変わったところ、普通ではないところはひとつとして見受けられない。トランプの女王も、せいうちも、狂った帽子屋も、どこにもいない。彼を囲んでいるのは、無人の砂場とぶらんこ、無機質な光を振りまく水銀灯、枝を広げたケヤキの木、施錠された公衆便所、六階建ての新しいマンション(四戸だけ明かりがついている)、区の掲示板、コカコーラのマークがついた赤い自動販売機、違法駐車している旧型の緑色のフォルクスワーゲン・ゴルフ、電信柱と電線、遠くに見える原色のネオンサイン、そんなものだけだった。いつもの騒音、いつもの光。〜>
 天吾は状況を把握するために、今一度周りを見回す。いつもと同じ風景。佐野元春の『情けない週末』の歌詞みたいですね。アリス世界の住人達はいない。帽子の中のヤマネは相変わらずまどろんでいるのかもしれなし、せいうちはカキの子供達をだませなかったのかもしれない。とにかく異世界のものはいない。風通の風景。ただ青豆が逃げ込んだマンションは六階建ての新築マンションだった。そして空には月がふたつ浮いている。