映画『ちゃんと伝える』感想
あの園子温監督の最新作『ちゃんと伝える』の試写に行った。
ガンに倒れた病床の父親を見舞うサラリーマンが、自らも病に冒され、父親よりも余命が短いことを知り、残された時間をどう生きるべきか、どのように、そして何を<ちゃんと伝える>かを葛藤するドラマだ。主人公のサラリーマンをEXILEのAKIRAが好演、父親を奥田瑛二、母親を高橋恵子、恋人を伊藤歩と演技派が脇を固める。
映画は冒頭20分、とても速いテンポでシークエンスを重ねていく。会話も間を取ることもなく、台詞もくい気味にカットが割られる。今回の映画の上映時間は普通の映画並みなので、園監督、目いっぱい詰め込もうと欲張っているのかなと、ちょっといぶかった。
主人公と恋人の会話に「ちゃんと伝える」というキーワードが語られ、タイトルがスクリーンに映し出されると、映画のテンポがするりと緩んだ。そして物語の時点を冒頭より以前に戻し、回想シーンも含めて、父が病に倒れるまでの家族のストーリーが丹念に語られていく。
シーンが映画の出だしに戻ると、台詞はまったく同じだが、そのテンスから編集ののりしろまで違ったシークエンスが繰り返される。タランティーノ「パルプ・フィクション」的編集は、今では使い古された方法だが、園監督がやると妙な説得力を持つから不思議だ。
物語が死というテーマに集約されていく中で、映画時間の経過はどんどん遅くなっていく。園さん、ちゃんとした普通の映画も撮れるんじゃん、と思った矢先、ガツンとかまされる。これがやりたくて、ここまで我慢してきたのね。だから、絆のカタチとしての「釣り」なのね。やられました。
ラストにむかうストーリーの中、もうひとカマシが来るのではというイヤな予感(期待)がちょっとあったが、園監督は爆発することなく、さらっとした後味で物語は駆け抜けてくれた。いずれにせよ、一筋縄の映画は作らない人だなあと感心しました。
本筋とは関係ないけど、このところの日本映画の主人公の男の親友役って、高岡蒼甫かやべきょうすけか桐谷健太ばかりやっているような気がするのは僕だけではないだろう。ちゃんと演技できて、スタッフ受けもよく、いろいろバーター条件も整っているのかなと邪推。
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「オヤジ、先に逝ってくれ。」
父よりも短い余命宣告を受けた息子。
究極の家族愛に、心、震える。
人は最期に何を思い、どうやってそれを伝えていくのか。
あなたの“ちゃんと”は、なんですか?
「ちゃんと伝える」
2009年8月22日(土)から全国ロードショー
監督・脚本: 園子温
出演:AKIRA(EXILE)
伊藤歩
高橋惠子
高岡蒼甫
奥田瑛二