ドキュメンタリー『9.11〜アメリカを変えた102分〜』

 ヒストリーチャンネルで放送された「9.11〜アメリカを変えた102分〜」を観た。第61回エミー賞4部門にノミネートされたドキュメンタリー。
 2001年9月11日火曜日午前8時46分のアメリカン航空11便がWTC北棟に突入。同午前9時3分南棟にユナイテッド175便突入。同午前9時59分南棟が崩壊。続いて午前10時28分北棟も崩落。その間102分間。その時NYCで記録されていた100台を越える様々なカメラや音声を1時間42分、時系列に再構成したこの番組は、8年経って今一度“9/11”を振り返る僕たちに衝撃を与えずにはいられない。これまでのニュース映像や特集番組でほとんど使われていない、一般の市民が撮影したビデオ、ニューヨーク市警察や消防署、港湾局や救急隊員の無線でのやり取り、監視カメラ映像、そしてテレビ局がカットした映像などをつなぎ合わせて構成しているという。

 以下は観ながら書いたメモをもとに構成した。

 ワールドトレードセンター・ノースタワーの爆発音と立ちのぼる煙を見た多くのニューヨーカー達はまず爆発事故だと思った様子が映し出される。アパートの窓から煙を上げるWTCをビデオ撮影する部屋のテレビから臨時ニュースで小型航空機が衝突したと第一報が流される。撮影者は「あんな上の火事、どうやって消火するんだ?」と心配している。しばらくすると爆弾テロだという情報が駆け巡り、次は橋やトンネルに仕掛けられた爆弾が起爆するのではという恐怖が流布する。消防車とパトカーのサイレンが鳴り響く。舞い散る書類の紙、ファックスのロール紙。そして明らかにそれとは違う質量のものが落ちてくるのが撮影される。火災の熱や煙に耐えることができなくなって自ら身を投げる犠牲者達がズームされたビデオカメラに撮影される。
 そして全世界に生中継された衝撃にサウスタワーへのジャンボ機の突入。ロウワーマンハッタンの高層アパートに住むヤッピー達はその様を目の当たりにして悲鳴を上げる。事故ではなく事件と理解し、涌き上がる脅威の表情。そして自分たちの今いる高層ビルは危険だ気づき避難を始める。2機の航空機が2本のビルに衝突した意味を咀嚼しようとする。テロという言葉が皆の口に浮かび始める。
 街を歩きながら撮影されるビデオカメラ。黒煙を上げるふたつの高層ビル。呆然とツインタワーを見上げて佇むニューヨーカー達。パレードの紙吹雪のように舞い散る白い書類。煙が充満しているWTCのフロアからの緊急電話に答えるオペレーターの声。タイムズスクエアのナスダックの大画面LEDモニタを食い入るように見つめる通勤途中の人々。助けを求めて割れた窓から身を乗り出し布を振るビルに残された人たち。熱さを逃れようと身を投げる人を嘆き見上げるしかない地上のニューヨーカー。ジョージ・W・ブッシュの現場に逼迫感からはほど遠い間の抜けたコメント。
 WTCの中から避難してくる人たち。負傷者もいる。救助に向かう消防隊員。避難を誘導する警察官、ビルの保安員。そして、ツインタワーの火災をビルのふもとから心配そうに見つめる人たち。無人フリーマーケットのテント。虚しく流れるメロディボックスの音楽。漂うワイヤと金属が焦げる匂い。ペンタゴンへも航空機が突入したニュースが街の人々を愕然とさせる。封鎖されるマンハッタン。ハイジャックされた航空機が2機だけでないという情報が錯綜し(管制塔から行方が確認できない航空機が数十機という切迫したニュース)人々の恐怖心を助長する。サウスタワーの煙の色が黒煙から白煙に変わる。塔の壁面が剥がれるように外に向いている。北へ逃げる人の波。そして彼らを轟音が包む。
 瓦解するサウスタワー。白い噴煙が避難する人を追いかけるように飲み込んでいく。深い白い噴霧の中、息もままならず逃げる。逃げる。体制を整えて再び現場に向かう消防士たち。火山灰が積もった後のようなロウワーマンハッタン。鳴り続ける非常ベル。どこかのクラクション。避難を確認しにビルに戻る保安員。白い瓦礫の世界。周辺のビルも破壊されている。スタテンアイランドから白く煙るマンハッタンの南端を絶望的に眺める人たち。イスラム社会に攻撃的な発言をする者もいる。ブルックリン・ブリッジに向かう人波。
 そして支柱を外されたかのように崩落するノースタワー。噴煙が再び通りを走る。北棟崩壊の時は及ばなかった方向にも瓦解の煙は進む。アパートの窓辺に置いたまま録画されていたカメラの横で、いつもの窓にタワーが二本ともないことに声を上げる女性。逃げ遅れて舗道を歩く鳩。色を失った風景。消防士の蛍光のラインだけがうごめく。ハウリングする無線の声。退廃的なインスタレーションのような情景。タオルで口を覆い避難する人たち。
 窓の外の風景を幼い弟に説明する女児。「スペンサー、みて。ワールドトレードセンターのビルはなくなったの。でしょ? もう、なくなったの」


原題:102 MINUTES THAT CHANGED AMERICA

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