1Q84読中メモ17

第17章(青豆)私たちが幸福になろうが不幸になろうが
 この章を読んでふと最初のページを見るとジャズ・スタンダードの「ペーパームーン」の歌詞が書いてある。「君が信じてくれたなら紙の月さえ本物になる」というロマチックな唄だ。『1Q84』は「月」もキーワードのひとつですね。ずっとカバーを外して読んでいたので気づかなかったが、本の表紙の右下にもうっすら<月>がデザインされているし。そっか、これが挿画のコピーライツ表記のある、NASA/Roger Ressmeyer/Corbisの写真からおこしたものな訳ね。『ねじまき鳥クロニクル』の装丁にもバリ島・ウブドの美術館から鳥の画がデザインされてたし、新潮社装幀室はなかなかいつも凝っているなあ(ハルキさんが陰の装丁者と噂されているけど)。
 青豆はクライアントである老婦人の屋敷によばれ、新規の<仕事>を依頼される。彼女たちの言葉を選んだ会話の中に緊張感が醸し出され、物語は次のフェーズへと進んでいく。
<〜老婦人の顔が特殊な赤銅色の輝きを帯びていくのを青豆は目にした。それに連れていつもの温厚で上品な印象は薄れ、どこかに消えていった。そこには単なる怒りや嫌悪感を超えた何かがうかがえた。それはおそらく精神のいちばん深いところにある、硬く小さく、そして名前を持たない核のようなものだ。〜>
 老婦人も心の底に冷たい小さなもうひとつの「月」を潜ませているのかもしれない。