1Q84読中メモ28

第4章(天吾)そんなことは望まない方がいいのかもしれない
 天吾は、十歳の頃クラスのいじめから一度かばったことのある女の子のことをぼんやり考える。親の宗教に振り回されて教室で浮いていた子、誰もいない放課後黙って天吾の手をじっと握り何も言わずに去っていったあの子のことを時折気にして彼は生きてきた。そのまま音信不通になってしまった彼女と自分はもっと違った接し方ができたのではないかと後悔もする。
 天吾は知らない、その子にとっても彼は生涯ただ一人の愛した男性であることを。
<〜時間というものは、人為的な変更を片端からキャンセルしていくだけの強い力を持っている。それは加えられた訂正に、更なる訂正を上書きして、流れを元どおりに直していくに違いない。多少の細かい事実が変更されることはあるにせよ、結局のところ天吾という人間はどこまで行っても天吾でしかない。
 天吾がやらなくてはならないのはおそらく、現在という十字路に立って過去を誠実に見つめ、過去を書き換えるように未来を書き込んでいくことだ。それよりほかに道はない。〜>