1Q84読中メモ30

第6章(天吾)我々はとても長い腕を持っています

 編集者・小松から送られてきた『空気さなぎ』の書評の束を読んで天吾は思う。
<〜『空気さなぎ』を読み終えて「ミステリアスな疑問符のプールの中に取り残されたままに」なっている善男善女に対し、天吾は同情の念を抱かないわけにはいかなかった。カラフルな浮き輪につかまった人々が困った顔つきで、疑問符だらけの広いプールをあてもなく漂っている光景が目に浮かんだ。空にはあくまで非現実的な太陽が輝いている。天吾はそのような状況を世間に流布する一端を担った人間として、まったく責任を感じないというのではなかった。〜>
 ハルキさん、大丈夫だろうね? 『1Q84』自体がクエスチョンの大行進として終わらないだろうね? ちょっと不安になる。過剰に散りばめられたシニフィアンはちゃんと回収されるのだろうか。
 そして天吾はエアーポケットに入ったかのような静かで無機質な日々を過ごす。誰も彼に連絡してこない、語りかけてこない。 そんな中、火曜日にたて続けに電話が二本かかってくる。村上春樹世界では不吉な電話は火曜日に鳴るものと決まっている。別れの通告と最後通牒、そして天吾もひとりきりになってしまった。