1Q84読中メモ32

第8章(天吾)そろそろ猫たちがやってくる時刻だ
 ひとりポツネンとしてしまった天吾は目的なく外出する。そして何かに導かれるように父親のいる千倉を訪ねる。(千倉は安西水丸氏の故郷で、ハルキ・水丸がふたりで行った『村上朝日堂』のエッセイが懐かしい)
 失われるべき場所にいる変わり果てた父親と天吾は向き合う。そして自分自身を愛するために必要な真実を求めて天吾は父を詰問する。退行する記憶と共に失われてしまう真実をつなぎとめるために、生まれて初めて父と積極的な会話をする。そして父親から天吾は、お前は何ものでもないと言われる。
<〜天吾は息を呑み、少しのあいだ言葉を失っていた。父親もそれ以上口をきかなかった。二人は沈黙の中でそれぞれにもつれあった思考の行方を探った。蝉だけが迷うことなく、声を限りに鳴き続けていた。
 この男はおそらく今、真実を語っているのだ、と天吾は感じた。その記憶は破壊され、意識は混濁の中にあるかもしれない。しかし彼が口にしているのはたぶん真実だ。天吾にはそれが直感的に理解できた。〜>