映画『MW-ムウ-』感想

MW-ムウ-』の試写を観てきた。手塚治虫生誕80周年記念、主演・玉木宏山田孝之 、2009年7月4日公開の“問題作”だ。バッド・ムービー・アミーゴスがぶった切った『日本映画最終戦争』は、09年もまだ終わっていなかったのだ!
 映画は冒頭、タイ・バンコクでの邦人誘拐事件の身代金受渡しの緊迫したシーンから始まる。なかなかお金が掛けられたアクションシーンが続くが・・・、長くね? 時計を見ると30分以上経ってる。導入部分というか、本筋とは直接関係ないシーンに4分の1の時間費やすってバランスがいびつだ。冷酷で天才的なバットヒーロー・玉木宏を印象づけるにしてもちょっとなあ。
 日本に帰国してからも、玉木の計算しつくされて非情な犯罪は続く。どうやら16年前にとある孤島で悲惨な「事件」が起きて、その島の生き残りの玉木は幼馴染の山田孝之と難を逃れた過去があるらしい。その「事件」には隠蔽された驚くべき陰謀があり、玉木は復讐として数々の犯罪計画を遂行していく。そして玉木の計画の矛先は「日本」そして「世界」になってゆく。玉木を止めることができるのは気心の知れた神父になった山田だけだが・・・。
 といった感じで映画は進んでいく。タイのシーンで時間をいっぱい使っちゃったから、陰謀の謎解きやら玉木の計画の全貌やらは、真相を追って変死をした新聞記者が遺した手帳が、都合よく発見されてさくさく進んでいく。あらあら。
 シーク&ファインドの末、玉木は秘密兵器<MW>を発見するのだが、それにはちゃんと[MW]と書いてあった。親切な秘密兵器だこと。だいたいさ、生まれ故郷の悲劇の島に玉木と山田が行くのだけど、ちっちゃいクルーザーで東京湾から半日くらいで着いていたのには驚いた。給油もしてなさそうだったし。沖のなんちゃら島って、てっきり八重山諸島の小さな島とか想像するでしょ、普通。
 この映画で一番ナゾなのはアメリカ軍だ。アパッチヘリで何の警告もなく丸腰の一般人を機関銃で掃射しちゃうし、米軍基地はセキュリティがセコムより甘いし。拳銃持った刑事、基地内に入れて司令官と一緒にぼーっとテロを見てるし。
 中途半端なリアリティほど観るものを惑わせ呆れさせ失笑させるものはない。このところ僕が浸っていた、『1Q84』とか村上春樹、『ヱヴァンゲリヲン』やら庵野秀明が造る物語と比較するのは酷かもしれないが、映画『MW-ムウ-』のような、こんなもんでいいしょ的な世界観やプロットで作られたコンテンツには絶望するしかない。
 テロルが日本とは直結しない遠い異世界の話だった時代、手塚治虫の奔放な物語力が描かせた『MW』というピカレスク・ストーリーは意味を持ったのだろう。しかし21世紀に暮らす僕たちは現実の出来事として、もっと残酷でもっと狂気に満ちた事件を共同経験してしまっている。地下鉄サリン事件、9.11同時テロ、イラク戦争・・・。
“禁断の手塚マンガ”では、wikiによると、主人公のふたりは性的なつながり、支配や隷属といった関係もあったようだ。狂気のテロリスト役は山田孝之の方が合っていたかもしれない。玉木宏は、そつのない芝居をする役者だけど、胸ぐらつかんで説き伏せるような説得力は残念ながら見出せなかった。
 玉木ファンがこういった映画を観に行くのかなあとエンドタイトルを眺めていたが、場内が明るくなったとたん、彼のファンらしい隣の席の女子高生達があきれた顔で見合わせて、次の瞬間ふき出していた・・・。そんな映画でした。
映画『MW』公式サイト