1Q84読中メモ33

第9章(青豆)恩寵の代償として届けられるもの

 村上春樹小説世界においては、主人公はほとんど光のないホテルの部屋でキーパーソンと対面することになる。『ダンス・ダンス・ダンス』では、いるかホテルの時折つながる真っ暗な異空間で、羊男はじっと主人公を待っていて、彼を最後の冒険へ誘う。『ねじまき鳥クロニクル』では、カティーサークがベッドサイドに置かれた208号室で、トオルは電話の女に物語のヒントをもらう。
『1Q84』では、青豆がホテル・オークラのスイートルームの暗闇の中、「ターゲット」といよいよ対峙する。「リーダー」と呼ばれるこの小説の<黒幕>が、物語の四分の三をむかえてようやく姿を現す、光のほとんどない部屋の中だけど。村上ワールドでは、ホテルの暗闇は「あちら側」を意味するのだが。
<〜そのリズミカルな、また多くの意味を含んだ反復は、青豆を落ち着かない気持ちにさせた。これまで見聞きしたことのない領域に足を踏み入れたような気がした。たとえば深い海溝の底であるとか、あるいは未知の小惑星の地表であるとか。なんとか到達することはできても、もとに戻ることのかなわない場所だ。〜>