1Q84読中メモ36

第12章(天吾)指では数えられないもの

 天吾が部屋に戻るとふかえりはシャワーを浴びた後だった。髪を上げた彼女はいつもと印象が違う。
<〜おかげで耳と首筋がすっかりむき出しになっていた。ついさっき作りあげられて、柔らかいブラシで粉を払われたばかりのような、小振りなピンク色の一対の耳がそこにあった。それは現実の音を聞きとるためというよりは、純粋に美的見地から作成された耳だった。少なくとも天吾の目にはそう見えた。そしてその下に続くかたちの良いほっそりとした首筋は、陽光をふんだんに受けて育った野菜のように艶やかに輝いている。朝露とテントウムシが似合いそうな、どこまでも無垢な首だった。髪を上げた彼女を目にするのは初めてだったが、それは奇跡的なまでに親密で美しい光景だった。〜>
 父親訪問から戻った天吾にふかえりは「お祓い」が必要だと言う。雷鳴が近づくなかリトル・ピープルたちが入り口を探している。ベッドの中のふかえりが初めて漢字を混ぜた台詞を言う。
<〜「こちらに来てわたしをだいて」とふかえりは言った。「わたしたちふたりでいっしょにネコのまちにいかなくてはならない」〜>