映画『白夜』感想

 眞木大輔吉瀬美智子のふたり会話劇映画「白夜」を試写で観た。それぞれの事情を抱えた男女がフランス・リヨンの赤い橋の上で偶然に出会い、急速に惹かれ合っていくラブロマンス。・・なのだが、多くの人にある種の苦痛をこの映画が与えるのは、決して主演のふたりの責任ではない。
 小林政広監督の長年あたためていた企画が実現したのが本作「白夜」だという。あたため過ぎたのか、この監督の持ち味なのか(申し訳ないが僕が他の作品を観ていない)、台詞回しがすべて70年代後半風で、まず強い違和感を感じさせてくれる。主演のマキダイと吉瀬を本当に撮影現場まで会わないようにするとか、吉瀬にリヨンまでの航空機中、劇中彼女が着る衣装を纏わせるとか、小林監督の演出には独特のこだわりがあるようだが、それ以前に映画としてちゃんとすることがたくさんあるように僕には思える。
「ファンタジーをドキュメンタルでリアルに撮りたい」ということで、手持ちカメラによる望遠撮影がほとんどだ。だからブレる。何か別の狙いがあるのか、嫌がらせのようにフレームは手ぶれを続ける。スクリーンをちゃんと観ていると10分で気分が悪くなってくる、物理的に。この映画は観る者にかなりの平衡感覚を要求するのだ。照明も「リアル」に撮っているから、夜間のシーンになるとほとんどはっきりしない。もしかして、ちゃんとロケ申請をしてない?と疑いたくなるほど、ドキュメンタル(w)な映像なのだ。そのクセ、後半の赤い橋のシーンだけ、照明がきっちりと焚かれ、カメラもフィッスクされる。ここだけはちゃんと撮影を申請していたのだろう。

 小林政広監督は、リオンを映画の舞台にしたのは「映画の生みの親・リュミエール兄弟が暮らした街で、兄弟のような小さくても宝石のような輝きのある作品を作りたい」からだとリリースで語る。は? リュミエール兄弟って、映画作家というより興行師なんですけど。彼らの「作品」は基本的に<見せ物>だと僕は理解しているが、その中には小林監督の言うようなフィルムがあるのかなあ。それと、フランソワ・トリュフォー「大人は判ってくれない」で出てくる、ギニョル人形劇のシーンが好きだからリオンということもあるらしい。劇中、マキダイが唐突にギニョルについて語るのはそういうことかあ、はあ〜。
 で、この映画のタイトルが「白夜」なのは、不遜にもロベール・ブレッソン監督「白夜」からとのこと! だから物語の舞台は橋の上・・・。リヨンには白夜ないしね。っていうか、そもそも「白夜」の原作はドストエフスキーで、結ばれない電車男のような話を、ブレッソンが舞台をイタリアに移して美しい恋物語に翻案したことは小林監督も知っている、筈だ。あのね、ペテルブルク→イタリアの港町→リオンと設定を変えちゃ「白夜」の意味がまったくなくなっていますから、ホント。何か、有名な映画と監督を安直に並べてよく考えずにお話作っちゃったのかなと、僕は思いました、不遜ながら。あしからず。

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「白夜」

何も見つからなかった男。
すべてを捨ててきた女。
ただ、すれちがうだけのはずだった・・・。

フランス・リヨンを舞台にした、たった1日限りの恋物語

2009年9月19日(土)より公開


監督・原案・脚本: 小林政広
出演:眞木大輔吉瀬美智子
映画「白夜」公式サイト

追記:2009/09/25
映画館の予告編で小林監督の「ワカラナイ」をチラ観。こっちは何だかよさ気な映画かも。
「ワカラナイ」公式サイト