映画『アンナと過ごした4日間』感想

ZERO-tortoise2009-11-18

 とある映像の撮影でポーランドに行ったことがある。チェコとの国境のいわゆる「黒い森」がロケ場所だった。ポーランド第4の都市・ブロツワフから山に向かってイェレニャ・グラという小さな町を拠点としてロケ隊を組んだ。滞在中ずっと天気が良くなかったからか、僕のポーランドのイメージは暗く重い雲が覆う国として記憶されている。降っているのが判らない位の霧雨の中、黒い針葉樹の森に入っていく。酸性雨に立ち枯れた森林のカットが必要だったので国境近くの山にまで分け入った。途中、ほとんどひと気のない集落で昼食をとった。レストランなどある筈もなく、地元コーディネーターの案内されるままに、民家の食堂でロケ隊は食事をした。すぐ横には牛小屋があり牛がぼんやりと佇み、家の前では陰気な山羊が草を食んでいた。ポーランドの片田舎の風景。
 この「アンナと過ごした4日間」は、そんなポーランドの片田舎が舞台だ。全編、暗く陰鬱な空が宿命的に覆っているポーランドの田舎。<韓国の田舎>という舞台装置がなければポン・ジュノ監督の『母なる証明』が成立しなかったように、重く硬質なポーランドの空気がなければこの映画は表現されなかっただろう。
 監督は『早春』などで知られるポーランドの巨匠・イエジー・スコリモフスキー。17年ぶりに手がけた本作は第21回東京国際映画祭で、審査員特別賞を受賞している。
 主人公・レオンは病院の火葬場で働いている孤独な中年。向かいに住む看護婦・アンナの部屋を毎晩ただ覗くことを日課としていた。レオンのその行為に肉欲は伴わない。というか、何の感情も彼はいだいていないように見える。そして、レオンはある晩、アンナの部屋に忍び込む。そしてまずしたことは、彼女のシャツの取れかけたボタンを繕うことだった・・・。
 Twitterでフォローさせてもらっている@GEN_1980 さんの「アンナと過ごした〜」を観た旨のつぶやきに対して、僕が「アンナさんが決して美しくないところがスコリモフスキ監督のリアリティだと思いました。」とリプライしたところ、
「そうですね。レオンとアンナが自身にまとわせた肉と脂肪の厚みは、孤独であることの寂しさから自分を守るかのようです。」とのツイート。この映画の本質を語っているように思う。
<@GEN_1980 さん、勝手に引用させてもらいました。問題があれば削除します>
 予告編がちょっと残念な出来になっている。ガルに発注する予算がなかったのだろう。いい映画ですと万人に言える作品ではないが、すげえ映画です。えー、くれぐれも石橋貴明の娘が主演した映画と間違わないようにご注意下さいw
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2009年10月17日より渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開、全国順次公開決定

英題:FOUR NIGHTS WITH ANNA
監督・脚本・製作:イエジ・スコリモフスキ
出演:アルトゥル・ステランコ、キンガ・プレイス、イエジー・フェドロヴィチ、バルバラ・コウォジェイスカ

公式サイト