劇場用アニメーション映画『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』に戸惑う

ZERO-tortoise2009-12-17

 僕は「宇宙戦艦ヤマト」のドンピシャの世代ではない。70年代ヤマトのTVアニメが視聴率的には不調に終わり、それでもあった根強いファンの声で、TV版を再編集した映画は興行として成功した。その後オリジナルストーリーの続編映画が作られ、しかも完結するという発表がされた。それが『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』、この映画から小学生だった僕はヤマトに熱中した。徳間書店の「アニメージュ」のムック本ロマンアルバム(確か銀色のカバーに高級感を感じた)を買って事前知識を貪り、宮川泰の「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」LPレコード(オーケストラということで親が買ってくれたw)を聴き込み、とつてもない期待を胸に映画に臨んだ。上映館には長蛇の列が出来ていて、そのイベント感も気分を盛り上げた。「ヤマト1」で敵役だったデスラーがヤマトに味方し命を散らせ、ヤマトは<愛のために>地球を脅かす巨大な敵・白色彗星帝国(こんな名前だっけ?)に立ち向かって行く。主要キャラが感動的なエピソードを携えて次々に<愛のために>死んでいく。シールドを破って勝利したかに見えた敵要塞から、超巨大戦艦が姿を現し古代艦長代理は呆然とする(ヤマトの敵は当時から基本的にインフレーションを起こして強大になっていく、ずっとw)。反物質の体を持つテレサと共にヤマトは特攻かけて、おしまい。沢田研二が歌うエンディングソングが流れる。70年代アニメの歌にちゃんとした歌謡曲が使われることがまだ珍しかったし、そのバラードは感動的だった。小学生の僕は号泣ww。  …いかん、「復活篇」でなく「さらば」の話で自己盛り上がりをしてしまった。
 一部のディープなSFファンを除けば、日本のSFアニメはまだ幼年期だった。ワープとか反物質というワードも僕はヤマトで初めて知った(未だによく解らないけど)。予め設定された勧善懲悪の世界観の中で、ワルモノと戦う正義の味方のアニメ・特撮に慣らされていた僕らには、宇宙戦艦ヤマトは新鮮で驚きだった。それぞれの星にそれぞれの事情があり、誰かを、母星を守るため=愛のために戦うと明言されたモチベーション。小学生には<愛>の意味することすらよく理解していなかったが、愛のために戦う姿は感動的だなあと夢中になった。
 好評だった「さらば〜」をベースにしたTV版として「宇宙戦艦ヤマト2」が放送された。オフィスアカデミーの西崎義展プロデューサーは、このテレビシリーズで大幅な変更を行なった。「宇宙商船」と化したヤマトは、特攻はテレサひとりに任せて、主要クルーも戦死することなく生き延びて終了した。そして、いくつかの映画が製作され、TVのシリーズやスペシャルでヤマトは愛のために戦い続けた。
僕はとうにその興味を「機動戦士ガンダム」にスライドさせていた。

 長い前置き(?)になった。『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』の公式サイトで、アニメーション評論家の氷川竜介氏はこう述べている。
「最初に『宇宙戦艦ヤマト』が登場したのは戦艦大和があった太平洋戦争から29年が過ぎた1974年でした。ところがそれから2009年までは35年。いつの間にか、こちらの方が長くなっていて、すでにヤマトそのものが歴史になっていることを実感します」
なるほどそういうことなのだ。その歴史を経て、今のヤマトがどうなっているのか確かめるために2009年12月13日に僕は劇場へ向かった。

 もともと懐疑的に斜に構えた鑑賞態度で観た訳だが、前半思いのほか楽しんでいる自分がいる。音楽がすべて懐かしい、あの宮川泰の名劇伴のままなのだ。擦り切れるまで聞いたあのレコードの曲に、オリジナルのシーンを意識したシークエンスがのせられる。CGを多用したメカや戦闘シーンは70年代には表現できなかった動きをみせてくれる。ただ、人物の動きやカットがどうしても古臭い。作画監督の湖川 友謙60歳、イデオンの頃から何も変わっていない、棒立ちのキャラクター&煽りの画w。まあ、ヤマトという伝統芸能だから、例えば文楽の人形に稼動する箇所が古いなあと文句をつけても仕方がないのと同じだろうけど。
 しかし後半に入ると、オールドファンとの間に形成されたそんな牧歌的な取り決めは影を潜める展開になっていく。原案・石原慎太郎イデオロギーがストーリーに侵食してくる(と僕は思った)。
 今回の「復活篇」は、地球に近づく巨大ブラックホールから人類が逃れるために、大移民宇宙船団を組み地球と環境の似た星に移住しようとするが、謎の艦隊に襲撃され、それに立ち向かうにはヤマトの復活しかないということでストーリーが展開する。その謎の艦隊は、多くの星から編成される「星間国家連合軍」で、地球はこれに加盟しておらず、宇宙の侵略者として襲撃されていたのだ。その「星間国家連合軍」は実質的には強大な軍事力を誇るSUS軍によって動かされて、SUSは地球を侵略者と決め付ける。
 星間国家連合軍→多国籍軍、SUS軍→アメリカ軍という置換は誰もが気づくことだろう。
 そして古代艦長は、正義と誇りのため、玉砕覚悟でSUSと戦う。今回の映画のキャッチコピーは「愛のために戦え!」。これ自体、自己撞着パロディ以外何ものでもないのだが、最終的に<愛のため>じゃないじゃん。そこは逸れちゃダメじゃん、ヤマトなんだから…。
 あと、ヤマトでの地球を救えって、基本的に対象が人類だけなんだと気づく。動物たちは地球に残されてぼーっとしてたしw 『2012』であのエメリッヒすら取りあえず箱舟的に人間以外の生物も救おうとしてたのに。西崎監督、エメ公すら凌駕しちゃうのねえ。

 映画が終わり最後に「復活篇 第一部 完」の文字が浮かび、場内がザワつく。西崎義展のロードマップだと、アニメの復活篇の第二部はTBSの連続TV枠で放送して、2010年12月の『SPACE BATTLESHIP ヤマト』につなげて、再びのヤマト・ムーブメントを構想しているのかな。『復活篇』と実写版映画の製作委員会はほぼ同じ会社で構成されているというし…。

※実写版の製作委員会は下記の通り
TBS、セディックインターナショナル、エナジオ、東宝、ロボット、Jドリーム博報堂DYメディアパートナーズ小学館MBS、TCエンタテインメント、CBCTBSラジオ&コミュニケーションズ、TOKYO FM、白組、RKBHBC、ほかJNN全28局
エナジオは西崎氏のヤマトの版権管理会社、TCエンタテインメントはTBSとTSUTAYAが作ったDVD等販売会社。やれやれ。
__________________________

2009年12月12日より 全国東映系にて公開

企画・原作・製作総指揮・監督:西崎義展
総監修:舛田利雄
エグゼクティブプロデューサー:西崎義展、中沢敬明
原案:石原慎太郎
脚本:石原武龍冨岡淳広、西崎義展
キャラクターデザイン・総作画監督湖川友謙
メカニックデザイン・副監督 :小林誠
オリジナルスコア:宮川泰羽田健太郎
交響曲ヤマトクラシック曲演奏:日本フィルハーモニー交響楽団
音楽監督・指揮:大友直人
CG制作:オムニバス・ジャパン
制作スタジオ:ヤマトスタジオ
製作:株式会社エナジオ、『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』製作委員会

公式サイト

SPACE BATTLESHIP ヤマト公式サイト