映画『銀色の雨』感想

ZERO-tortoise2009-12-13

 僕は鈴井監督の4年ぶりの映画をとても期待して観たのだ。封切日に観た。鈴井貴之が企画・出演する、北海道のローカル番組「水曜どうでしょう」は、企画とタレントキャラだけで全国に番販され、現在もリピート放送が繰り返され、特番のDVDは確実に売れている。大泉洋という全国区のタレントも輩出し、大泉が所属する演劇集団・TEAM NACSの公演も各地でチケットがソールドアウトする。鈴井は彼らの属するタレント事務所の社長でもある。そして、大泉洋らが東京進出する際、大手事務所・アミューズと提携を結んだ経営者という側面も持っている。北海道ドメスティックな所属タレントには、自らも出演する番組をチャンネルNECOで制作し育成も図っている。
 しかし、北海道を舞台とした鈴井監督の映画3作はどれも、ミスターのテレビや舞台と比べると今ひとつの出来に思えた。一言でいうと、ひとりよがりで凡庸なのだ。その後、鈴井はタレント活動を一時休業して、韓国に<映画留学>した。撮影現場でいろいろ学んできたという。
 そして満を持しての作品である『銀色の雨』。原作を浅田次郎の短編として、北海道を離れて鳥取県米子市を映画の舞台とした。僕は鈴井監督の新作にとても期待して観たのだ。

 結果は残念な形に終わっていた(と僕は思う)。原作を知らないのだが短編ということで、1本の映画として明らかに<タマ>が不足している。ストーリーに厚みや弾みを持たせるようなエピソードを作り出すこともできなかったのだろう。間延びしたカットが続く映画。エピソードのモチーフもレイアウトの取り方も、何だかどこかで観たような既視感があるものばかりで、僕の観た直後のつぶやきもがっかり感たっぷりなものだった。何も新しい個性的な展開や画作りが見当たらない。主人公の子が陸上やってる高校生なのだが、走り姿が美しくない。『風が強く吹いている』の林遣都くんを見習え!! まるで無理に付き合わされた3次会のカラオケ屋で、下手な上司のよく知らない懐メロを聞かされているような気がした。ツッコミや文句や矛盾点の指摘をする気力を奪う映画って、ある意味すごい。
 多分、製作費集めに腐心したのだろう爪痕が委員会のラインナップで伺える。シネマートを運営する、ヨーロッパ系の良作を安値で買付けて興行&宣伝しているSPOがトップクレジット。続くWOAは、よく知らないが経営者の趣味で映画を製作出資している会社。「8月のシンフォニー」という、とんでもアニメが今年もあった。
「どうでしょう」で、鳥取をこのクソ田舎と罵倒して、深夜バスのキャメル号に悶絶して、砂丘の砂を持って帰って後々問題化した、ミスターにとって因縁の鳥取で映画撮るなよと、どうでしょうファンとして思った、よ。
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2009年11月28日(土)よりロードショー

監督・脚本: 鈴井貴之
原作: 浅田次郎
脚本: 宇山圭子
出演: 賀来賢人前田亜季中村獅童濱田マリ音尾琢真大島優子富澤たけし伊達みきお 他

公式サイト