映画『今度は愛妻家』とシンクロ率が高い事は幸福な事ではないのかもしれない

ZERO-tortoise2010-01-25


 行定監督はこの映画のメインターゲットを、80年代薬師丸ひろ子の一連の映画に夢中になった人たちである<薬師丸ゾーン>だと言っていた。しかし、実はそれ以上に観る者を選ぶ映画だと僕は感じた。
 おばさん役ではなく、ひょうきんな中年妻を演じる薬師丸は魅力的だし、オカマ役の石橋蓮司の演技プランには唸るものがあるし、後半の展開は衝撃的だ。でもある意味、それだけなのだ。オチは結局○○と同じじゃんという感想もあるだろう。
 この映画では、子供を持たなかった(持てなかった)夫婦の誰もが通ってきた道が示される。夫婦のじゃれ合いや馴れ合い、愛情と愛着、つまらない言い争いと無愛想、不文律のルールとタブー等々。トヨエツと薬師丸夫婦の日常はきっと多くの夫婦が経験してきたエピソードに満ちている。
 ふたりは沖縄に旅行をする。言うまでもないことだが、多くの場合、非日常の場を求めて皆ボストンバッグをパッキングする。いつもと違う空間と時間に放り出された夫婦は、お互いのいい部分を発見することもあるが、往々にして、日常で埋もれていた相手のネガティブな部分を、追認することの方が多かったりする。そして、夫婦は「あきらめ」の割合を高めるか、「終わる」しかないのかもしれない。トヨエツと薬師丸夫婦は、「終わる」ために沖縄を旅する。だらしのない夫は「終わり」の足音すら気づいていなかったけど。

 近年の行定勲監督と薬師丸ひろ子の代表作と言われることだろう。あと、この作品の水川あさみもよかった。劇中、夫婦が口ずさむ「夢の中へ」がフックとなって、エンドタイトルの井上陽水が歌う「赤い目のクラウン」が涙を誘う。
_______________
2010年1月16日(土)全国ロードショー

夫婦には「さよならの」前に、やらなければならないことがある。
今度は愛妻家

監督:行定勲
原作:中谷まゆみ
脚本:伊藤ちひろ
撮影:福本淳
主題歌:井上陽水
出演:豊川悦司薬師丸ひろ子水川あさみ濱田岳津田寛治奥貫薫井川遥石橋蓮司

公式サイト