名画座の休日


 9月26日(土)見逃していた園子温監督の『愛のむきだし』を名画座へ観に行く。DVDも発売されたようだが、4時間の作品を集中して家のリビングで観る自信がなくて、三軒茶屋中央劇場という、レトロな名画座に初めて行った。キャロットタワーにある会社の会議で、窓の下に広がるトタン屋根の中にある箱型の建物が気になっていたにだが、その正体は映画館だっだ訳だ。壁面にカッパの絵が描いてある。
「映画は中劇」とボディコピー。屋上看板は右始まり横書で「特選映画封切場」とある。しかるに、券売機でチケットを買って中へ。1300円。「愛のむきだし」午後12時開始。しかしこの映画びっちりつめこんでるよ、ほんと。ドラマでやれよと思うが、こんなドラマ観たくないし、数字も取れないし、地上波はNGだろう、レート的に。うーむ、やはり映画しかないのか。これ、封切り時は劇場の収入が減るから2500円とかで公開したようね。作るほうは勿論だが、カケる方も、観る方も、それぞれ覚悟がいる映画だ、ほんと。主演の二人、西島隆弘満島ひかり、これから他の仕事できる?と心配になってしまうくらいアクの強いキャラだった。インターミッションがある映画を久し振りに観ました。後半に入ると物語は混迷してゆく。2時間どっぷり観た後だから、どんな変態だろうとわがまま女だろうとキャラクターにたっぷり感情移入の洗脳がされてしまっている観客に仕立て上げられているから、観客も気持ちをむきだしたまま観るしか術がない。そしてクライマックスは感動のボッキ。
「愛のむきだし」サイト

 もう1本の映画は『子供の情景』。4時間と固いシートに打ちのめされてぼーとしてると始まった。この映画に関しては事前情報・予備知識ゼロ。冒頭バーミヤンの巨大石像の爆破映像から始める。物語はそのふもとで暮らすアフガニスタン人の生活を描くものらしい。ちいさな女の子が学校に行きたくてそれにはノートが必要で、でもおかねがなくて・・という展開で、アフガン版「はじめてのおつかい」かよ、これドキュメント?と気楽に観ていたのだが、苦労の末、やっと近所の男の子とたどり着いた学校では、ここは男子校で女子校はあっちと先生に邪険にされる。女の子・バクダイはねばるが(健気なのだ)そこは戒律がきびしい国なのだ。とぼとぼと歩くバクダイを男の子の集団が取り囲む。「おれたちはタリバンだ!」と機関銃に見立てた木の枝を向ける。そして<拉致>する。おいおい、こういう映画かよとこの時点で初めて気づく。子供の生活やいたずらに衣を借りた中東社会に巣くう問題を描いた映画なのだ、どうやら。チビッコ・タリバンから逃げ惑うバクダイに友達が言う。「バクダイ、死んだふりをするんだ。それで奴らは追いかけてこなくなる。バクダイ、死ぬんだ!」
 三茶中央、いや〜、重い2本ラインナップしすぎ・・。こんな映画にこんなタイトルつけるのってどこ? 調べたら、やはり岩波映画でした。
「子供の情景」サイト

 で、つづいて9月27日(日)。結構な名画座少年だった僕は、ケツの痛さと共に感覚が戻ってしまい、この日も名画座に行くことに決めた。検索すると目黒シネマでまだ観ていない今年のアカデミー作品を2本立てでやってることをしった。

 目黒シネマは雑居ビルの地下にある。館主の映画に対する愛がそこかしこに感じられる。ラインナップのせいかもしれないが結構盛況だ。ネットで割引券を持って行って1300円。12時30分過ぎから『ミルク』を観る。
 多くのガス・ヴァン・サント作品がそうであるように、映画のテンションとしては中弛みが否めない。ゲイを個人的には嫌う俳優・ショーン・ペンが見事に演じる初めて公職についたゲイ・ミルクの演技を堪能する映画だ。日本にほんわかと暮らす身にはどうしてもアメリカ社会でのマイノリティへの排他主義を実感をもって観ることができない。アジア人も十分、まだマイノリティなのにね。後半のたたみかけはサントさん、さすがです。

「ミルク」サイト

 そして「スラムドッグ・ミリアネア」。15時には目黒シネマ、満席になってました。ダニー・ボイルの彼が作ったスタイリッシュな映像、皆ある程度食傷気味だが、インド・ムンバイのガチャガチャした色と風景には妙に新鮮にハマっていることに驚く。疾走感も。スラムドックの生活の中にすべてのクイズの答えが潜んでいたことを示すために、警察による取調べてと番組を平行して流す展開はなかなかスリリングだったが、最後の大バクチの答えが、<勘>って・・。他に盛り上げる方法ないかなあと帰り道考えちゃいましたよ。ともあれ初恋思い込みの童貞ヘタレが勝利する映画はいですね。
「スラムドック・ミリオネア」サイト

 ずいぶん数は減ってしまったと思うけど、名画座巡りも楽しいかもと思う秋の休日でした。ロビーのまったり感がいいのよねえ。