村上春樹短編『イエスタデイ』感想

 図書館で『文藝春秋』2014年1月号を借りられたので、ハルキさんの連作短編『女のいない男たち2』の『イエスタデイ』をようやく読んだ。
 連作の1がそうであったように、今作の『イエスタデイ』も、ビートルズの『イエスタデイ』の事で、マッカートニーのかの歌に関西弁の訳詞をつけた、エキセントリックな友人の思い出話から物語は始まる。
 多くの読者が気づくことだろうが、この小説はハルキさんのあの『ノルウェイの森』のアナザーストーリーだ。死を選ばなかったキズキがいて、心を病まなかった直子がいて、緑と出会わなかった僕が、トピックなしに生き残った場合の物語。
 今、どうして、村上春樹はこの小説を書いたのかわからないけど、救いのなかった、赤と緑の本の鮮烈な物語を、ハルキさんがあの頃をよりもう少し自分に寄せて、別の境地にある三人として描いてくれたことは、何だか、とても、ほくほくとさせてもらい、愉しませてもらいました。
 あと、初期の漱石の匂いもする短編小説でもあり、前作の『ドライブ・マイ・カー』は評価しないけど、このお話はとても好きです。