佐野元春のザ・ソングライターズ vol.5 6 松本隆

 このところバタついていて、録画したTV番組を観る時間がなかなかない。一連の海外ドラマとか、いったい何週分溜まっているのか、恐くて完全に放置している。そんなわけで、元春さんのこの番組も2週分ストックされてしまい、昨夜まとめて観る形になった。つまり、作詞家・松本隆の回をようやく続けて視聴したわけだ。
 松本隆がいた、初めての日本語ロックバンド・はっぴいえんど時代から対談は始まる。
「演奏の練習もろくすっぽしないで、<言葉>に関しての会議ばかりしていた」と言う。日本語でロックはできないという当時の常識に対して、一度真正面から日本語と戦おうとはっぴいえんどは考えていたようだ。反抗心がクリエイトの原点だと松本隆は言う。
 佐野が松本にはっぴいえんどの楽曲の独特の歌詞に関して松本が答える。
「口語と書き言葉をごちゃ混ぜにしたかった」
「漢字って、とても綺麗でしょ」

 元春さんが、大滝詠一の名アルバム「EACH TIME」の中から、「1969年のドラッグ・レース」選んで朗読する。アーティスト・佐野元春の楽曲が一時期その方向に向かっていたこともあるが、ポエトリーダーとして元春さんは優秀だと思う。松本隆も朗読を聞き、いいねと一言いった後、「この曲は昔の仲間への別れの手紙だから・・・」ともらした。

 番組の後半は<松田聖子プロジェクト>のことに話がいたる。松田聖子がいちばん松田聖子だった80年代、彼女が歌うほとんどの言葉は松本隆によって紡がれた。彼女の曲は「B面までマジに作った」と言う。松田聖子を評して、「瞬間的にコンテンツを解釈し、消化をし、それを瞬時に身体表現に昇華させる一種の天才」、やはりタダモノのアイドルではなかったようだ。
 佐野元春Holland Roseホール&オーツの変化形)名義で書いた曲「ハートのイアリング」は、佐野としては、それまで聖子になかった翳りとブルースを表現したかったそうだ。

 松本隆は、風、水といった無機質でカタチのないものが本質的で好きだと言う。
 学生の質問に真摯に答えて松本は言う。
「時代性は計れない(図れない)。歌作りにおいて、マーケティングはあまり意味がない。それよりも自分の感性のアンテナを鋭くして、より普遍的な表現を目指すべき。残るものだけが後から時代性として語られる」

 松本隆の自伝的小説「微熱少年」が好きだった。1987年、松本自らのメガホンで映画化もされている。たまたま知っている子が主演女優だったので、仲間うち何人かで劇場に観に行った。スクリーンの中の人が横を見ると銀幕に照らされている、不思議な体験だった。映画は、松本の名曲の歌詞がストーリーに織り込まれた、静かな物語だった。松本の撮る「雨のウェンズデイ」の情景は心に染みた。
 ちなみに、どこかで読んだのだが「微熱」という言葉は、松本隆の造語だ。今ではどの辞書にも載っているけど。

「ザ・ソングライターズ」、8/22(土)はスガシカオ、楽しみ。


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