映画『14才のハラワタ』感想

ZERO-tortoise2009-10-25

 昨日、雨がそぼ降るなか下北沢のトリウッドで「14才のハラワタ」を観てきた。東京ビジュアルアーツ専門学校の学生による商業映画製作がコンセプトの“トリウッドスタジオプロジェクト”の第4弾となる作品とのこと。
 先週、バルト9で開催されたドイツ映画祭2009で、宮山麻里枝監督の「赤い点」を観たのだが、この作品は宮山監督のミュンヘン映画大学の卒業制作として作られた映画だ。ヴィム・ヴェンダースらを輩出したこの学校は、卒業作品で有望な企画は商業映画としてプロデューサーがつき、スポンサーが集められて製作されるという。「赤い点」も日本人初のミュンヘン映画大学卒業生である宮山監督の企画が認められて商業製作された作品だった。
 日本において学生が商業映画を制作できる機会は本当にまれだ。ピア・フィルム・フェスティバルに入賞したり、サンダンスのスカラシップに選ばれるとか、ごく狭き門しかないのが現状だと思う。そんな中、トリウッドスタジオプロジェクトは注目すべきシステムだと思う。製作に加えて‘小屋’も含めたプロジェクトだということが何よりいい。実際、映像コンテンツを作っても作品をかける劇場を見つける事が日本においては本当に困難だ。興行収益の半分を利益とする映画館は動員の見込めない作品を上映プログラムに加えることはとても勇気のいることだ。製作者側は宣伝費をいくら費やして、パブ効果のある俳優をこれだけ稼働させる保証を約束してようやく上映に辿り着ける。パブが確実なTV局主導の映画がハバを効かせてしまうのはある意味仕方がない事なのだろう。小屋も小屋で死活問題なのだ。シネコン化が進み、スクリーン数が増えて、お金はないけど良い作品が上映される機会は以前より増えたことは喜ばしいことだが、大筋の<仕組み>は変わっていない。2時間ドラマのような、マンガやケータイ小説を適当に翻案して製作した、広告費だけ潤沢な邦画はいまだ蔓延している。

 えっと、何だか関係ない話にそれてしまった。「14才のハラワタ」の話。脚本と監督は19歳の佐山もえみ、彼女の中学生時代の塾での経験からの描いた作品とのこと。ハラワタとは主人公の原田ワタルが自分につけた自分だけのあだ名。ハラワタはたぶん、自分にはあまり興味がない。髪はボサボサと制服はシワシワ。クラい訳でもなく、人気者な訳でもなく、彼女は観察者だ。そして、そんな彼女には、同級生、父親、母親、塾の男の子、皆がポツリポツリをちょっとしたホントの気持ちを吐露していく。ハラワタはただそれを聴き、見守っていく。ハラワタは自分の<ハラワタ>=構成要素をきっちりとまだ把握できていないことを自覚しているのだ。そして、だから、大好きな父親がこだわっていた靴磨きを自分も継承することをまず自分に約束したのかもしれない。19才の監督が5年前を振り返ることでしか表現できない、移りゆく心象を捉えた映画。ハラワタ、いいおんなになれよ。

________________________
監督・脚本:佐山もえみ
プロジェクトマネージャー:大槻貴宏
プロデューサー:山本達也
技術プロデューサー:日根野晋一
撮影:西岡ほさな
照明:三多祐也
録音:堀谷みなみ
音楽:関島岳郎
出演:長野レイナ、松田洋治大家由祐子、水嶋瑞希、五十嵐令子、池上幸平、武田勝斗、橘ゆかり

「14才のハラワタ」公式サイト